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書きたくなったら、また書くのです。

門出に。

久しぶりのblogアップは、今日の昼休みに、ショックのあまりFacebookに殴り書きした文章。ちょっと校正して、こっちに置いておきます。いつか自分で読み返せるように。

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銀座でバーをやっている馴染みのマスターから、「残念だけど店をたたむことにした」というメールが来た。しかも大晦日で閉めると言う。今月は東京に行く予定がない。最後に一言挨拶するチャンスもない。大ショック。久しぶりに眩暈がするほどのショックだ。

マスターと知り合ったのは、15年も前、新入社員の頃。取引先に連れられて行ったという、カッコつけの大学同期に連れて行かれた赤坂の店が始まりだった。そのときマスターは表参道の店に勤めていて、たまたま仲良しの赤坂の店をしばらくの間任されていた時だったと思う。それからというもの、金もないのに良く行ったものだ。あまりに金が無いので、牛丼だけ喰って酒を飲みに行くような日々だった。僕の酒の飲み方はマスターから教わったといって良い。酒だけじゃない、ブラックジャックやヤッツィーの手ほどきだってマスターから受けた。バーとバーテンは使いようだよ、と言ってもらい、好きな娘が出来れば連れて行った。マスターは笑いをかみ殺しながらかもしれないが、良く付き合ってくれたものだ。

7年ぐらい前だろうか、マスターが独立して、麻布十番のエラい判りにくい小径に自分の店を開いた頃、僕も30を超えて結婚し、お酒の楽しみ方も変わってきた。それからもマスターの人柄と創り出す世界に魅入られて通い続けた。最初に教わったアイラの酒(ラガヴリン)ばかり飲んでる僕に、山崎とラフロイグの相性のおもしろさを教えてくれた。ラフロイグの樽で熟成させたトロワリビエールのラムなんてものも教わった。福井出身のマスターが拵えるつまみは絶品だった。そんなマスターの周りに集まる客も、個性豊かな、不思議な世界だった。僕にとっては東京の「居場所」だったんだろう、香港に来てからも、東京に戻れば顔を出すようにしていた。と言っても、年に1回ぐらいしか行けてなかったから、あんまり良い客だったわけじゃない。

今年桜の咲く頃、マスターは麻布の店を畳んで、銀座にやってきた。あの震災のあとというタイミングになってしまったが、マスターにとっても、バーテンダーとしてやっぱり銀座なのかな、と思ったし、そもそも客の方もどんどんおっさんになり、銀座というのは頷ける選択ではあった。店は半分ぐらいになったかもしれない。雰囲気だってちょっと違う。けど、ドアを開ければやっぱりそこは居場所だった。今年はまだ2回しか行けてなかったから、次回は是非顔を出そうといつも思っていたのだけれど。

そんな僕の社会人人生を彩ってくれたバーがなくなる。なんか言いようのないショックである。もっと顔出しておけば良かったと後悔してもはじまらないし、確かに店は永遠じゃない。マスターがなんで店を畳むのか、理由は聞いてないけど、確かに世の中変わってしまった。そんなことも理由なのかもしれない。

昔、「恋の行方 (The Fabulous Baker Boys)」というB級映画があった。艶やかな Michelle Pfeiffer の相手役を Boe Bridges と Jeff Bridges の兄弟が演じていた映画を覚えている人もいるかもしれない。あの映画で Jeff Bridges が住む煉瓦造りの古いアパートの1階に古ぼけたバーが有り、行き場所がなくなるとそこへ転がり込んで酒を飲む描写に、何ともなしに共感した覚えがある。僕にとってはそんな居場所だった。

次に東京に帰っても、行き場がない。困った。けど、マスターもまだ引退するような歳じゃない。またどこかでカウンターに立つのかもしれない。居場所がなくなるのは寂しいけれど、マスターも客も、卒業して新しい門出ってことだと思おう。

マスター、次にお会いするときも、やっぱりラガヴリンのソーダ割りをお願いします。

Maeda Bar
東京都中央区銀座7-6-19 ソワレド銀座弥生ビルB1F
03-5537-8222
年内は無休で営業されるそうです。平日は午前3時まで、週末は24時まで。最終日の大晦日は、お酒が無くなるまで。