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書きたくなったら、また書くのです。

海角七號

去年台湾で記録的大ヒット作となった、魏徳聖監督の台湾映画『海角七號』が、明日12月26日〜シネスイッチ銀座を皮切りに、日本でもようやく公開されることになったそうです。「ようやく」と書いたのは、本国での大ヒット直後から公開を望む声は少なくなかったにもかかわらず、かなり長い間日本でのみ公開予定が決まらなかった作品だから。

「海角七号:君想う、国境の南」
http://www.kaikaku7.jp/

予告編。

台湾では興行記録を塗り替える大ヒット。香港でも公開され大ヒット*1でした。そのほか、アジア各国でもスマッシュヒットを記録した作品。上映中は台湾では大変な騒ぎでした。僕はDVDを買って観たけど、まあ確かに若干B級*2なところは有る。また、出てる俳優さんもおよそ名優とは呼びがたい(どっちかというと素人)。だけど、それらを差し引いても確かに面白い作品です。ただ、全編会話の多くが台湾語*3で進行するので、中国語字幕を見ないとわかんなかったけど、ストーリーは難しくないので大体判ります。
大陸においては、公開はされたものの、日本統治下での恋愛を扱った部分や、台湾語の部分など、中共当局にとって都合の悪い部分をカットした結果、ストーリーが唐突な映画になってしまい、あまりヒットしなかった模様。もっとも、大陸公開に至るまでの経緯でずいぶん話題を呼んだこともあり、裏DVDは大ヒットしたそうですが。

台湾と日本の関係を考える上で、この映画はとても面白く、なおかつ、現代の若い台湾人が日本に対して抱いている思いを、率直に代弁していると言っていいかもしれません。日本ではこの映画に多分に政治的な意味合いを持たせる向きもあるようですが、僕はそこまで言わなくても良いとは思う。けれど、1987年・蒋経国時代の末期に戒厳令が解除され、翌年彼が登用した李登輝が、本省人初の総統に就任、1989年に侯孝賢監督の「悲情城市」が公開され、台湾人が二・二八事件を振り返ることを許され始めたと言う転機の頃から約20年。台湾と日本の関係を考える上で無視することの出来ない「日本統治時代」の意味合いについて、双方の今の世代が再び考える、良いきっかけになればいいなあと、台湾に関わる日本人として思います。

この批評は頷けます。

激映画批評『海角七号 君想う、国境の南』(前田有一)
http://www.cinemaonline.jp/review/geki/10996.html

こんな講評もあり。これはちょっと行き過ぎ感は感じるかな。

そのうち日本版もDVDになるでしょうから、是非観てくださいとお勧めします。純粋にエンターテイメント作品としても面白い。ラストシーンの「野ばら」は、思わず涙。この「野ばら」を選曲したところが、魏徳聖監督が若いながら、と大変な評価を受けたところでしょう。また、舞台となっている恒春をはじめとする、墾丁国家公園の美しい海岸線も見所。名優の演技にうなる、という映画ではないけど、アジアをゆくなら、その前に観ておいて良い映画だと思う。それがある種の日本人の感傷であったとしても、同じものが今の世代の台湾人に支持されたのも、また事実なのだから。
余談ですが、ヒロインを演じている田中千絵という女優さんは、日本では全くの無名ですが、トニー・タナカの娘だそうで、この映画の大ヒットを受けて、今じゃ台湾で知らぬものはない大スターです。

「必死に生きたこと、今につながる」 映画「海角七号/君想う、国境の南」 田中千絵さんインタビュー(産経ニュース)
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/entertainers/091225/tnr0912251536007-n1.htm

海外で大スターになった日本人・第2位:田中千絵


海角七号 2枚組特別版(台湾盤) [DVD]

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悲情城市 [DVD]

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*1:余談ですが、香港人の若い子たちの間で、この映画の後南台湾旅行が流行ってます。ウチのスタッフも行ってた。香港〜高雄は飛行機で1時間強、お手軽だしね。ちなみに舞台になっている一帯は、サーフィンのメッカとしても有名なあたり。と言っても、台湾ではサーフィンはメジャーじゃないので、日本人はじめ外人サーファーばかりらしいですが、穴場だそうです。

*2:中華圏映画のB級さ、というのは、私思うに『恋する惑星』に代表される王家衛ウォン・カーウァイ)作品とかにも共通する「ゆるさ」なので、ある種の特徴でもあり、良いか悪いかは受け手の受け止め方とは思う。そういうものと思って観れば違和感ナシ。

*3:台湾で一般的に本省人と呼ばれる人口の大多数を占める人々の多くに話される言語。閩南語、ホーロー語とも言う。公用語である國語=北京語とは全く違う言語。台湾、特に本作の舞台でもある南部では、一般的に公的場面では國語、会話は台湾語、もしくはちゃんぽんで進む。